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【大賞受賞者インタビュー】 迫りくるインフラクライシスの助けに! 橋の“たわみ”を効率よく計測できる新技術で大賞受賞

近年話題にあがることが増えた、私たちの身近にある社会インフラの老朽化問題。中小規模の橋を多く抱える地方自治体では、それらを維持管理していく財源や人材、技術が不足しているといいます。

こうした課題の解決に向けて、橋梁モニタリングに取り組んできた株式会社TTESは、橋の“たわみ”を容易に計測できる装置を開発。令和3年度開催の「世界発信コンペティション」(本年度「東京都ベンチャー技術大賞」の前身)に出品し、ベンチャー技術部門で大賞を受賞しました。

受賞後、社内外でどのような変化やメリットがあったのか。同社代表取締役の菅沼久忠氏に、大賞に応募した経緯なども含めてお話をうかがいました。

効率的なインフラ管理を実現する技術を開発

橋のモニタリング技術開発を手がけるTTESは、かねてから道路・橋梁・水道といった公共建造物の老朽化による“インフラクライシス”に着目。菅沼氏は、効率よく安全に橋梁インフラを維持管理できるシステムの必要性を強く感じていたといいます。

橋の劣化度の指標となる“たわみ”の計測には、これまで多くの時間とコストがかかるだけでなく、作業する人の安全性にも課題があったことを懸念していたからです。

「当社が数々の橋梁モニタリング業務に携わっていくなかで、中小橋梁をいくつも抱える地方自治体から『最小限の費用と少ない人員で、可能なかぎり多くの橋梁を点検できたら』という声があがっていることを知りました。

そうした自治体のニーズに応えようと開発したのが、昨年ベンチャー技術大賞をいただいた橋梁たわみ計測システム『INTEGRAL PLUS』です。」(菅沼氏)

同システムは、縦横15cm程度でセンサー内蔵の長方形型装置を橋の上に設置し、トラック車両を走らせるだけで“たわみ”を計測できるというもの。昼夜天候を問わずに利用でき、これまで労力のかかった計測の足場設置や河川協議などが不要になったこともポイントです。

【INTEGRAL PLUS主な特徴】

  1. 作業時間が1橋あたり15分程度と大幅な時短を実現
  2. 活荷重(橋を移動する自動車等の荷重)によるたわみを橋の振動まで含めて高精度なデータを取得できる
  3. 計測の専門性を問わないため、作業者による誤差がない
  4. 計測データは現場からIoT端末を介してクラウドへ自動保存・アップロード

大賞の周知効果と顧客への説得力は絶大

全国の橋に迫っているインフラクライシスのことはもちろん、その対策の一翼を担う技術を開発できたことについて、「土木関係者だけでなく、さまざまな分野の人たちに広く知ってもらう必要があると感じていました」と菅沼氏。

これまでに浜松市や岐阜大学との連携協力によって行われた「INTEGRAL PLUS」の実証実験が、新聞などで報じられたことも。

より効果的な周知方法はないかとインターネットで探しているうちに見つけたのが、ベンチャー技術大賞の募集広告だったといいます。

「ベンチャー技術大賞という第三者の評価をいただけたことの意義も効果も大きかったですね。新製品を開発できても、その技術が社会的にどのように役に立つものなのか、一般的に分かりやすく伝えるのは難しいもの。

その点、お客さまに対して製品を説明させていただく際に、『こちらはベンチャー技術大賞を受賞した技術です』と一言つけ加えるだけで、圧倒的な説得力になると実感しています。」(菅沼氏)

このように、東京都の事業で評価されたという実績は企業としての社会的信頼を向上させ、受賞製品の周知効果も大きいことは確かでしょう。
とはいえ、菅沼氏は「それはオマケと捉えて、積極的に技術開発に挑戦していくことのほうが大事だと思います。

さらに言えば、その技術は誰のため、何のためにつくろうとしているのかという原点を見失わず、社員たちと思いを共有していけたら素晴らしい」と指摘します。

実際、菅沼氏はベンチャー技術大賞にエントリーする際、応募資料の作成や面接に向けた準備過程で、あらためて「INTEGRAL PLUS」を活用したビジネスモデルを整理できた上に、同事業の社会的意義や開発にかけた思いを社員たちとしっかり共有できたことが「非常に良い経験だった」と振り返っています。

橋は世界共通のインフラ。海外へのシェア拡大にも期待!

昨年大賞を受賞してから約半年、TTESには国内はもとより海外の橋梁事案に関する問い合わせが増えているのだとか。

主にアフリカ各国など途上国への製品輸出について、独立行政法人国際協力機構(JIACA)を通じて日本の政府開発援助(ODA)の仕事をコーディネートしている日本のコンサルティング会社と交渉が進んでいるそうです。

「橋は世界共通のインフラであることから、マーケットの拡大が期待できます。今後、より多くのお客様に、高度で均一な日本発の技術サービスを提供していきたいと考えています。製品開発時のIoT端末の他に、実装する国や地域に応じた端末も開発しました。今年度から海外への提供を行っていくことになります。」(菅沼氏)

また、海外進出には、もうひとつの狙いがあると菅沼氏は言います。

「日本においてもインフラの老朽化は大きな問題です。が、実際のところ海外の老朽化した橋に比べれば、日本の橋は滅多なことでは壊れる状況ではないのです。そこで当社としては海外の橋梁事案、つまり危機的な状態にある橋のデータを集積して、日本の橋の維持管理技術の向上に役立てたいと考えています。」

失敗を恐れず、まずは「やってみる」姿勢が大事

これまで紹介してきたように、TTESは大賞受賞を機に企業努力も相まってビジネス展開の場は確実に広がっています。「INTEGRAL PLUS」においても現状のシステムに甘んじることなく、橋のたわみ以外にも傾斜などを計測できる補強システムを開発して搭載していく予定なのだとか。

橋のモニタリングシステム向上に尽力する技術開発ベンチャーとして、チャレンジし続ける菅沼氏が大事にしているのは「何ごとも失敗を恐れず、まずやってみる」という姿勢だといいます。

「実際にやってみると、その多くは失敗しがちです。けれど、失敗からやり直す中で得られるノウハウの蓄積が、技術力の向上につながっていくのではないでしょうか。

INTEGRAL PLUSの開発中も、最初は技術者しか扱えない仕様でつくってしまい、そこから誰でも操作できるようにつくり直すのに苦労しました。

幸いにも東京都では、中小企業振興公社や産業技術総合研究所などが助成金支給をはじめとした支援サービスを提供しています。『まずやってみる』という過程に必要な人材やモノ、予算については、これら各種サービスを利用してみることをお勧めします。」(菅沼氏)

本年度のベンチャー技術大賞にエントリーを検討している企業に対しては、「応募を通して自社のサービスや製品を見直し、審査員の方々から貴重な意見をいただけるチャンス」と励ます菅沼氏。

コロナ禍や混迷する世界情勢の先にある新しい社会を見据えながら、飽くなきチャレンジ精神で、これからも価値ある製品やサービスの開発に取り組んでいかれることでしょう。

令和4年度「東京都ベンチャー技術大賞」は現在エントリー受付中。

応募受付期間は5月27日(金)まで必着となります。