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【令和4年度 大賞受賞企業インタビュー】 究極のモビリティ開発への挑戦! 苦節10年で極めた月面探査車で大賞受賞

2022年11月、NASA(米国航空宇宙局)主導の有人月面探査プロジェクト「アルテミス計画」の1号機ロケット(無人飛行)が打ち上げられるなど、宇宙開発の新時代が本格始動。

民間の宇宙ベンチャー参入の動きも活発化しており、日本を含めた各国の企業では月面探査に向けた技術開発が盛んに行われています。

折しも同じ頃、ロボット・宇宙開発ベンチャーの株式会社ダイモンが開発した月面探査車「YAOKI」が「令和4年度東京都ベンチャー技術大賞」を受賞。

起業から10年、ひとりで月面におけるモビリティ(移動性)の可能性を探求してきた同社の中島紳一郎代表取締役に、受賞製品の開発エピソードや受賞後の変化、今後の展望をうかがいました。

NASA月輸送ミッションで
「YAOKI」月面探査が実現へ

東京都内の中小企業によって開発された革新的な技術や製品、サービス。それらを振興する目的で実施される「東京都ベンチャー技術大賞」に、昨年度は106件の応募の中から、より優れた15件の製品などが選ばれました。

大賞を受賞したのは、株式会社ダイモンが開発した月面探査車「YAOKI」

同社独自の特許技術によって、手のひらサイズの超小型化と500gを下回る超軽量化を実現。
100m上空のドローンから落下しても壊れない高強度も兼ね備えた二輪型探査機のパイオニアです。

現在までに「YAOKI」は、NASAの「アルテミス計画」による商業月輸送サービス(CLPS)プログラムに採択された、月面着陸船の開発と輸送を手がけるアメリカの民間宇宙企業2社とペイロード(搭載物)契約を締結。

うち1社であるIntuitive Machines社製の着陸船に搭載され、2023年後半に予定している打ち上げを待つばかり。月着陸後は地球からの遠隔操作で月面を走行し、現地の画像データを送るミッションを行うといいます。

開発者である、ロボットクリエーターであり株式会社ダイモン代表取締役の中島紳一郎氏は「今回、無事に着陸船が月に到達すれば、YAOKIは世界で初めて月面で活動する民間の探査車となります」と感慨深げに語ります。


「YAOKIという名前は“七転び八起き”に由来しています。

いくど失敗しても屈せず立ち上がる精神性を象徴すると同時に、複雑な地形の月面でどのように転倒しても元に戻って走行できるという特性を表しています。

月面着陸1回目のミッションは、内臓バッテリー駆動による6時間の探査活動を予定。その稼働実績を踏まえて、2回目以降の打ち上げでは月面で充電しながら長期的な稼働を目指していきます。」(中島氏)

報われぬ時期でも
何百回と改良を重ね完成

東京都ベンチャー技術大賞を受賞した2022年は、奇しくも起業から10年の節目だったという中島氏。「そのうちの8年間は、ひとりで黙々とYAOKIの開発に取り組む日々でした」と振り返ります。

大学卒業後、外資系自動車機器メーカーで駆動開発に20年従事。アウディやトヨタで採用されている四輪駆動システムを開発したキャリアを持ちます。

自動車産業で10年、20年先の技術革新を見据えた先行開発に携わってきた生粋のエンジニア。
2011年の東日本大震災を機に一念発起して会社員生活に終止符を打ち、「究極のモビリティ開発に挑戦したい」と、自動車開発の経験を生かせる宇宙技術事業での起業を決意します。

「2012年の創業当時、『10年後くらいには、再び人が月を目指す時代になっているかもしれない』という予測はしていました。まだどこにもなかった探査車開発をいち早く始めることで、宇宙技術産業に参入する際の強みになると考えたのです。

とはいえ、すぐに収益を生み出せる事業ではありませんから、最初の5年間は他社からロボット設計などを受託し、その収益をYAOKIの開発費に充てる生活を続けました。」(中島氏)

そして、起業6年目からは受託の仕事を辞め、大詰を迎えていた「YAOKI」の開発にエネルギーを全投入することに。

「実はここから開発技術を特許出願するまでの2年間が、財政的にもメンタル的にも一番シンドイ時期でした」と中島氏。

スポンサー探しは難航を極め、なかには「中島さんが良い探査車を作っても、月に行くロケットを打ち上げる計画自体がないのだから支援は難しい」と言われたことも。

一大決心で“究極のモビリティ開発”に挑んできたものの、「自分がやっていることは、まったく無駄なのかもしれない」と、絶望感に苛まれたこともあったといいます。

それでも一縷の望みをかけて改良作業を何百回と重ねた2019年4月、主要特許を出願して現在の原型となる月面探査車「YAOKI」が完成

その後、アメリカのトランプ政権下(当時)で進められていた前出「アルテミス計画」へのグローバル企業参加募集についての詳細が発表されたことで、中島氏を取り巻く状況が加速度的に変化していったのです。

大賞受賞で知名度が急上昇!
パートナー企業も増えた

「YAOKI」の開発技術で特許を取得した中島氏は、さっそくプロモーション動画を自ら撮影・編集してYouTubeに公開。NASAはじめ、月着陸船の開発を手がける前出の民間宇宙企業などにSNS上でダイレクトメッセージを送ってPRした結果、2019年9月にはAstrobotic Technology社と最初の月輸送契約に漕ぎ着けました。

翌年からはコロナ禍によって渡米できなくなるなど行動制限の影響を受けながら、「YAOKI」の多額な輸送費を捻出するためのスポンサー探しに奔走。そうした中、相談に訪れた東京都中小企業振興公社で「東京都ベンチャー技術大賞」へのエントリーを薦められたといいます。

「月面探査車を月まで輸送するには、1kgあたり1億円かかるといわれています。YAOKIは500g以下まで軽量化できたので、輸送コストは5000万円で済みます。が、諸経費をプラスすれば結局1億円はかかってしまう。せっかくNASAのプロジェクトの一翼を担えるチャンスなのに資金が足りず、融資相談に行った銀行で同行した妻に泣かれてしまったことも…。

そうした苦境の中で応募した東京都ベンチャー技術大賞で、ひとりコツコツ開発してきた技術を高く評価してもらえたことに心から報われる思いでした。」(中島氏)

大賞を受賞したことで授与された開発・販売等奨励金300万円のほか、「YAOKIの知名度が格段に上がったことも本当にありがたかった」と笑顔を見せる中島氏。

これまで100社にスポンサー営業をかけても1社契約を取れるか否かといった状況だったのに対し、受賞後は数社に1社の確率で契約できるように。

さらにはビジネスパートナーとして技術提携を希望する企業などからの問い合わせも増えたそう。

「現在コンタクトを取っているのはITや技術系のベンチャー企業の社長さんたちが多いです。みなさん、わが社とのパートナー連携を未来志向で進めたいと考えてくださっているので、これからの展開が楽しみです」(中島氏)

信念を持って続けた技術開発
その真価を見てくれる人は必ずいる!

月の資源開発市場への民間参入が勢いを増している今、ますます「YAOKI」の活躍に注目が集まっていきそうです。

中島氏は「将来的に私たち人類は、こうしたロボットとパートナーとして協力関係を築きながら、宇宙へと進出していくことになる」とも語ります。

「YAOKI」は月面探査だけでなく、一般向けにバーチャルな月旅行を可能とするエンターテインメント・ツールにもなり得ると考えているそう。

「今年からの月輸送ミッションで段階的にYAOKIの月面活動実績を増やし、ゆくゆくは100機を月に送って1年間以上活動させる予定です。

当面は月面運用で目標達成することに注力していきますが、将来的には遠隔操作で月旅行だけでなく、地上での被災地支援や配管の点検、原子力発電所の廃炉などにも用途を広げていきたい。

これからより多くのパートナー企業や団体にYAOKIを提供していけたらと考えています。」(中島氏)

苦節10年の探求を経て“究極のモビリティ=YAOKI”をつくり上げた中島氏。

本年度の東京都ベンチャー技術大賞にチャレンジする企業に向けて、「技術開発のプロセスは、苦しいことも多い。それでも信念を持って続けてきた開発を、しっかり見て評価してくれる人は必ずいます

東京都ベンチャー技術大賞は、そういう中小企業の技術に光を当ててくれる賞なので、ぜひその機会を活用してもらえたら」と励まします。

強い信念と確かな技術力で、壮大な宇宙への夢を現実のモノに叶えようとしている中島さんの挑戦は、今後も「YAOKI」と共に続いていきます。

令和5年度「東京都ベンチャー技術大賞」は現在エントリー受付中。申請受付は6月6日(火曜・必着)までです。